百田尚樹氏は、「私の文章は短いんですよ。テレビでは話し言葉だから、長く説明しなきゃいけないが、読むのは短いほうが分かりやすい。」と言っていたとおり、いつも読みやすい、サクサク読める文章だ。
人の死期が見えてしまう主人公が、その能力に翻弄されていく。どこにでも必ずいるタイプの「本当に生真面目な性格」の主人公。その真面目さゆえに、得も、損もある日々だが、その特殊な能力は、「生真面目な」性格ゆえに、主人公を苦しめていく。
ただ今回の「フォルトゥナの瞳」は、作者の多忙さが垣間見えるような気がしてならなかった。前作の「夢を売る男」は出版業界の、「プリズム」なら解離性同一性障害について、奥の奥まで調べ上げてストーリーに盛り込むのが”百田流”で、それがまた読み進めていく楽しさの一つにもなっていた。
その点今回の「フォルトゥナの瞳」は、車のコーティング業界というものが主人公の職という設定ではあるのだが、今までの”百田流”のような奥深さはなく、未知の世界に触れてゆく楽しさはなかった。
しかしそれであっても、いつものテンポのよさ、小気味よいストーリー展開は健在だ。読んでいて飽きるということがない。
そして「すべてのストーリーはラスト1ページのために」この”百田流”もまたしっかりと健在だった。今回も読んでよかった一冊。